12 love storys
「あっ、いや、ごめん。困らせること言って。ほんと、ごめんね。急過ぎて返事に困るよね。」


「いえ、ありがとうございます。私の事をそんな風に思ってくださってたなんて……嬉しい……だけど……。」


と、上目使いで目の前の男に笑顔を向ける。


「だけど……?」


「ごめんなさい……私、今はどなたともお付き合いする気がなくて……。まずはお仕事をちゃんと出来るようになりたくて……。」


遊び相手の一人に加えてあげても良いけどね。と、心の中で呟く。


「そ、そうだよね。来月で漸く入社一年だもんね。俺、この前、辞令が出て別営業所に異動決まって、そしたら何か焦っちゃって。グズグズしてたら他のヤツに取られるんじゃないかって。」


「そんな……。取られるだなんて……。私、モテないです。」


そんなこと、全然思ってないけどね。取り敢えず、控え目に言ってみる。


「何、言ってるの。君が入社した時、凄かったんだよ。今年の新人に飛びきり可愛い子がいるって。今じゃ君の存在は社内の誰もが知っているよ。みんなが君を狙ってる。それで俺もーーー。」


「ごめんなさい……。」


と、今度は少し口を尖らせ困り顔で言ってみる。


「いや、大丈夫。困らせてごめん。君には笑顔が似合ってる。今日の事は忘れて、って君の事、諦める訳じゃないから。またチャンスを狙うよ。じゃっ。引き留めて悪かったね。」


ほんとだよ。これから誰か適当に呼び出して飲み直そうかと思ってたのに、と言いたい所をグッと我慢する。


そんな事は露知らず、フラれた割には妙に満足げに隣の課にいる先輩は如何にも優秀な営業マンらしく爽やかに去っていった。



チッ……。














「社内一の美人が舌打ちとはね。」



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