12 love storys
【August】キャンディと私と三日月と。
「んっ……やっ……めて。」
「…………ダメだ。」
「か……ちょぅ……。」
「課長じゃないでしょ?」
「ぁあっ……こ、孝介さぁ……んっ。」
「よく出来ました……。」
ニヤリと笑みを浮かべると
課長は私の唇をまた塞いだ。
私の隣で規則正しい寝息を立てて
眠る人の顔をまじまじと見る。
「ほんと、綺麗な顔……。」
すっと通った鼻筋に切れ長の目
そしてこの引き締まった唇。
ほんの数ヶ月前まで、まさか課長と
こんな風になるなんて
思いもしなかった。
同じ課の石倉課長を意識し始めたのは
去年のクリスマス前。
冷静沈着、いつだって目が笑っておらず
これだけのイケメンながらも
社内の誰もが近づこうとしない
絶対的威圧感の持ち主。
残業していたある時、
一旦、社を後にしたのに忘れ物に気付き
もう一度戻ったところ
私は我が目を疑うような光景を
目にしたのだ。
あの、いつだって全く笑っていない目で
「宜しくどうぞ。」と
絶対的な威圧感を醸し出している課長が
誰もいなくなったオフィスで一人
棒の先に丸い玉のついた
甘い甘いキャンディーを
口に放り込み食べていたのだ。
あまりにものギャップに
私はあっという間に課長に
嵌まっていった。
それまで、その威圧感から
早く逃れたいと思っていたのに
もっと、もっと側にいたい。
近くで課長を見ていたい。
そんな風に思うようになっていた。
ちょっと苦手な上司から
あっという間に好きな人と
なったのだ。
そして、思い切って
そう……
本当に会社を辞めるくらいの勢いで、
私はバレンタインデーに
課長に自らの思いを打ち明けたのだ。
甘い甘い棒つきキャンディーとともに……。
チョコではなくお気に入りの
キャンディーをあげたことが
良かったのか、
課長に私の気持ちを受け止めて
貰えたのだ。
そして、今こうして
課長の胸に抱き締められている。
私がそっと課長の胸に
顔を押し当てて目を閉じると
微かに私を抱く手に力が入った。
私もいつしか、眠りに落ちた。