上司のヒミツと私のウソ
 いつもの定位置、南端のフェンスの下の段差に腰掛けて、カバンの中から化粧ポーチを取り出す。

 ポーチの容積の大半は化粧道具で占められているけれど、用があるのはファスナー付き二重ポケットのほう。私はポケットから煙草とライターを取り出した。


 煙草をくわえて火をつけ、ゆっくりと煙を吸い込んだ。


「はー疲れた」

 制服のポケットに手を突っ込み、煙草をくわえたままぼうっと冬の淡い空を見上げる。


 私がヘビースモーカーだと知ったら、彼はどうおもうだろう。


 付き合いはじめて四か月たった。

 彼は企画部で私は人事部、部署も違えば接点もなく、必要以上に関わることも避けているため、社内で二人の関係に気づいている人間はおそらくいない。

 秘密にすることはお互いの希望でもあった。

 三十五歳にして企画部宣伝企画課課長というポストについている彼は、社内きってのエリートであり誰もが認める有望株だった。
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