上司のヒミツと私のウソ
 おまけに優しくてスマートでセンスがいいとなれば、女性社員が放っておくわけがなく。

 先月、ひそかに行われた女性社員による隠れ社内ランキングでは、「寝てみたい男」第一位に輝いている。もちろん本人は知らないけれど。


 うわさの的になるのは嫌だったし、余計なことで仕事がやりにくくなるのも嫌だった。

 隠し通すことについては、彼はすぐに賛成してくれた。理由を聞かれなかったから、たぶんむこうも同じように考えていたんだろうとおもう。


 とにかく忙しいひとなので、週末のデートはキャンセルされることが多かった。彼はそのたびに真摯に謝り、ときには花束やアクセサリーなどの贈り物を届けてくれた。誠実なひとだった。


 柄でもないことをやっている、と自分でもおもう。そんなひとと付き合っているなんて、未だに信じられない。


 本当は料理なんて大嫌い。

 単調な事務作業は性に合わなくてイライラするし、他人の面倒をみるのはなにより苦手。

 男に媚びるのはもっと嫌。

 人事の仕事なんて向いていないと心底おもう。
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