上司のヒミツと私のウソ
「だって私、課長が屋上で煙草吸ってるとこ、見たことないもん」

「え?」

「だからね、今までも屋上で鉢合わせることは何度かあったんだけど、課長のほうは煙草を吸ってなかったわけ。それに、煙草の匂いをさせて休憩からもどってきたこともなかったしね。そりゃー、あんたみたいに服の上に膜ができるほど大量に消臭スプレーをふきつけてれば別だけど」

「え? ちょっと待って。それじゃ、安田は気づいてたの?」

「なにが」

「課長が煙草吸ってること」

「あたりまえでしょ。ていうか、みんな気づいてるよ。匂いでわかるもん」

 安田はいまさら聞くかというように、呆れた目で私を見た。


「たぶん、課長が屋上で煙草を吸うようになったのって、あんたと別れてからだとおもうんだけど」

「……それ」


 どういうことよ? という疑問が口から飛び出す直前に、なんとかおもいとどまる。


「そ、それより安田、あんた今朝また遅刻したでしょ。今月何度目だとおもってんの」

 さりげなく話題を変える。矢神のことは考えないことにする。


「さあ。何度目?」

「覚えていられないほどよ」

「低血圧なんだもん」

「それは遅刻の理由にはなりません」

「んー。今朝は生理痛も重なってさあ」

「それ先週も聞いた」

 いい逃れする安田を問い詰めようとすると、安田はするりと立ち上がった。
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