上司のヒミツと私のウソ
「屋上に移動しない? 煙草吸いたいし」

「……やめとく」

「なんで? 禁煙やめたんでしょ」

「会社では吸わないことにした。本数、減らしたいし」

「ふーん」


 安田が探るような目で私を見ていることに気づいたけれど、気づかないふりをした。

「じゃ、ひとりで吸ってこよ」


 あっさりといい、安田はテーブルを離れていってしまった。私は食事のすんだトレイの器を見つめ、残った休憩時間をもてあました。


 午後からの予定を考えるとゆううつだった。


 このあと三時から、開発部の担当者と打ち合わせを行うことになっているのだ。例の企画の最初の仕事だ。企画部からは、矢神と私の二人だけが出席することになっている。

 先週の木曜日に矢神と屋上で会ってから、私は裏の矢神と会っていない。つまり仕事以外で口をきいていない。


 ごめん、とあのとき矢神はいった。


 ごめんってなんだろう、とおもう。

 いいたくないってこと? 私に謝らなくてはならないようなことをしていたってこと? たとえばどんな?
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