上司のヒミツと私のウソ
 彼や、社内のひとたちが完璧だとおもっている西森華は、ほんとうの私じゃない。


「そうだよねー……」


 本性がばれたら、みんな、ぜったいに引く。

 彼は一も二もなく、別れ話をもちだすにちがいない。


 今だって、ほんとうは不安でたまらない。

 最近、彼はとくに多忙みたいで、ここ一か月まともに会話をしていない。彼にいいよる女性はいくらでもいるだろうし、私なんていつ振られてもおかしくないとおもう。

 だから、なにがあっても秘密は守り通さなきゃならない。

 携帯灰皿に吸い殻を入れ、消臭スプレーを念入りに体に吹きつけてから屋上をあとにした。

 エレベーターホールにもどると、おばさんがベンチに腰掛けて待っていてくれた。鍵を手渡そうとしたとき。


「あら、こんにちは」

 おばさんは私の後ろを見ていった。


 ぎくりとして振り返る。
< 13 / 663 >

この作品をシェア

pagetop