上司のヒミツと私のウソ
「働く女性がほっとひと息つける大人の飲み物、という捉え方のほうが合っているようにおもえます」

「まだできあがってもないのに、上品もなにもないやろ」

「ではどういう味わいだと?」

「そやから元気になる味や」

 だんだん本間課長の関西訛りがひどくなってきた。


「その不可解な飲み物が本当に十代に受けるとおもいますか?」

「不可解ってどういう意味やねん。俺は健康志向の強い三十前後の独身女性が、ペットボトルや缶入りの甘ったるい紅茶を喜んで買うと本気でおもってるお前のほうがよっぽど不可解や」

「紅茶飲料がここ数年プラス傾向にあるのは、その甘さや香りが付加価値として受け入れられているからです。本間さんは最初から十代狙いでしたけど、それには根拠はあるんですか?」

「ない。俺の勘や」

「こっちはデータを取ってるんです。メール添付で送りましょうか?」

「いらん。そんなもんアテにならん」

「あなたの勘よりは信憑性があるとおもいますが」

「あほっ。数字はただの数字や」


 次第にエスカレートしていく二人やりとりを隣で聞きながら、私は心の中で深い溜息をつくよりほかなかった。
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