上司のヒミツと私のウソ
「こんにちは」

 にこりともせずに彼女はいい、睨むような強い視線で私を見た。コンビニで感じたのと同じ、激しい憎悪を含んだ視線。


 金色に近い茶色の髪に派手な化粧、ふてくされたような挑発的な態度。人事部でもたびたび話題にのぼり、問題視されている──宣伝企画課の安田真琴だった。


 エレベーターの扉が開いた。私たちは無言で箱に乗り込んだ。

 掃除のおばさんが一階下の八階でエレベーターを降りたあと、私は気まずい空気をもてあまし、にこやかな作り笑いで「今日も寒いですね」などと白々しい話題を振ってしまった。案の定、彼女は返事もしなければうなずきもしない。

 彼女は六階でさっさとエレベーターを降りた。扉が閉まりふたたび箱が下降すると、ほっとして緊張が解けるのを感じた。


 いったい、いつからあの場所にいたんだろう。
< 14 / 663 >

この作品をシェア

pagetop