上司のヒミツと私のウソ
「矢神くんもまだフリーみたいだし」

「すぐにまた見つかるんじゃないですか。矢神課長もてるし」

 私はなんでもないようにさらりといった。とりあえず今は誤魔化しておこう。


「いや、ああ見えて結構一途だから。矢神さん」


 マスターが、カウンターの向こうから意味深な表情で意味深な発言をした。律子さんが「へえ、そうなの?」と好奇心むきだしで聞いている。すでに客は帰っていて、店内には私たちだけ。マスターは遠慮なく続ける。

「あのころもそうだったし。本人は絶対に認めないんだけど、行動が単純だからすぐわかるんだよなあ。いやあ、見ていて切なかった、あれは」

「うそ、それ知らない。誰だれ」

「えーっとね。たしかリツのクラスの卒業アルバムに載ってた」
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