上司のヒミツと私のウソ
 そういいながら、マスターは暖簾をくぐって奥に引っ込んでいった。なにかごそごそいう物音がして、

「これこれ。この子」

 卒業アルバムを手にしてもどってきた。


 マスターが開いたページをのぞき込む。卒業生の顔写真がずらりと並んでいる中、マスターの指先が指し示すその女の子がひときわ可愛い子だということは、ひとめ見てわかった。


「なんだ、木下さんじゃない」


 私の隣からアルバムをのぞき込んでいた律子さんが、マスターからアルバムを奪い取った。

「ただの幼なじみかとおもってたけど」

 律子さんはそういいながら、顔を近づけてアルバムの写真を熟視している。マスターは流しの後片付けをしながら、ぼそりと「むこうはね」といった。
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