上司のヒミツと私のウソ
 まもなく、オムライスの皿がのった銀のトレイを両手に持った母が現れた。

ふわふわの黄色い卵に赤いケチャップがかかった「エーデルワイス」自慢のオムライスを、母は女の子の前に置いた。そして女の子の頭にそっと手をのせ、優しくほほえみかけた。

 女の子はおいしそうにオムライスを食べ始めた。私は走ってその場から立ち去った。悲しくて、悔しくて、涙が止まらなかった。


 あの日から、私はオムライスが食べられない。


 その「エーデルワイス」を、来月で閉めることになったと、母の手紙には綴られていたのだった。


「ぼんやりするな」


 頭上から低い声が降ってきて、私は古い思い出から現実に引きもどされた。一階へ降りるエレベーターの中だった。
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