上司のヒミツと私のウソ
 時刻は午後十時三十五分。

 今日と明日はゴールデンウィークの狭間の二日間で、明後日から五連休が待っていた。そのせいで、片付けなくてはならない仕事が山積みなのである。


 隣に立つ矢神は、不機嫌そうな顔で階数表示を見つめている。

 最近、矢神は屋上以外でも、社内で私と二人きりになると“裏”になることが多い。


 エレベーターのように完全に閉ざされた場所ならまだいいけれど、廊下や階段や執務室など、どこで誰が聞いているかわからないような場所でも、矢神は平気で“裏”になったりする。

 無防備すぎてこっちがハラハラするくらいだ。


「なんだ。まだ落ち込んでるのか」

 黙っていると、片側から矢神の失笑が聞こえてきて、私はむっとした。

「べつに落ち込んでなんかいません」

 強い口調で突っぱねてみたものの、あまり効果的ではなかった。

 矢神がお見通しだということもわかっている。実は本当に落ち込んでいたからだ。
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