上司のヒミツと私のウソ
 矢神が病院を継ぐために別れを告げたのだったら……それが真実だったら、少なくとも私は、別れを告げられるその瞬間まで、愛されていたことになるから。

 たった四か月でも、愛されていたという真実がほしかった。

 私と付き合っている間、私にプロポーズしたとき、矢神がほかの女性を愛していたなんて一ミリも信じたくない。


 心が焼けつくほど強くそうおもっていることを、絶対に──絶対に、気づかれたくない。


「大丈夫です」

 私は無理やり笑顔をつくって、明るい声でいった。


「私だって、あなたのこと利用しようとしてたんだから、おあいこです」

 軽く、明るく。冗談みたいに話せていますように、と願った。
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