上司のヒミツと私のウソ
 谷部長は席に着くなり、淡々と告げた。

「キャラメルミルクティーの発売は見送ることが決まった」

 室内の張り詰めた空気が、どよめきで揺れる。

「フレーバーティーシリーズの開発は延期する。以上」

 深い皺を刻んだ谷部長の顔は普段と変わらず無表情で、いくら見つめても崩れることはなかった。


「では、解散」

 呆気に取られて言葉も出ない私たちをよそに、谷部長はさっさと立ち上がって部屋を出ていく。

 すぐに、本間課長があとを追った。私も続いて会議室を出る。


 不安が胸を潰し、内側で激しく鼓動が鳴っている。


「ちょっと待ってください」

 廊下に出ると、本間課長が谷部長を呼び止めていた。

「延期って、どういうことですか」

 谷部長は面倒くさそうに顔をしかめる。

「まあ、そういうことだ。すぐに開発部にもどって調整してくれ。無駄な時間は費やしたくないからな」
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