上司のヒミツと私のウソ
「再開のめどは?」

「今のところ未定だ」


 それ以上の質問を阻むような、断固とした口調だった。

 本間課長は顔を歪め、明らかに不服そうな面持ちだったけれど、追及は控えた。


「矢神課長は承知してるんですか」


 私は本間課長に並ぶように立ち、谷部長の険しい顔を見上げた。

 肋骨を打つ心臓の動きがますます大きくなり、胸が痛いほどだった。


「今回の決定は、矢神くんの報告を受けてのことだ。彼には、あとで私から話しておく」

「でも」

「もう決まったことだ。今さらどうにもならん」

 怒ったようにいい捨てて、谷部長は私たち二人に背を向けた。


「どうやらあの人も、今度の決定には不服らしいな」

 本間課長がぼそりと呟いた。私はあきらめきれない。


「本当にどうにもならないんですか? 相模詩乃はあきらめて、ほかのタレントを起用すれば……」

「開発まで中止するってことは、たぶんそれだけの理由じゃないんやろな」

「……」

「トップが決定したんなら、しょうがない」

 溜息をついて、本間課長は悔しそうに天井を仰いだ。
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