上司のヒミツと私のウソ
翌日、私が出勤したときにはすでに矢神の姿はなかった。
デスクのパソコンの電源はついているから出勤していることは確かだったけれど、午前中ずっと席を外し、昼休みになっても執務室にもどってこなかった。
キャラメルミルクティーのプロジェクトが見送られたという話はすでに部内にも知れ渡っていて、出張からもどった矢神が懸命にトップを説得しているらしい、とひそかにささやかれはじめていた。
この件に関して私にはなにもすることがなく、ただ待っていることしかできないのが悔しかった。
昨日の夜、エーデルワイスが最後の営業を終えた。
店を閉めたあと、ミサコちゃんの家族や常連さんたちを交えてお別れ会が開かれた。
とても家族三人で感傷に浸るような雰囲気ではなくて、にぎやかで楽しい時間だった。
その場の空気がしんみりとならないように、父と母が気を配っていたせいかもしれない。
ずっと両親の気持ちがわからなかったのに、昨夜は違った。
二人は始終笑顔で、常に明るく振る舞って、その場を盛り上げていた。
二人の気持ちが自然と胸に伝わってきた。
彼らがエーデルワイスではなく、エーデルワイスを愛しているひとたちを大切におもっていることが、よくわかった。