上司のヒミツと私のウソ
「ちょっと、なにするんですか!」

 矢神は扉を閉めると最上階のボタンを押し、つかんでいた私の腕を放して安心したように長く息を吐いた。

「やっとつかまえた」




 いきなり大胆な行動に出ておいて、矢神はもうそしらぬ顔で私から離れ、エレベーターの壁に背中をあずけて平然と階数表示が変わるのを見つめている。

 変わり身が早いというかなんというか。


「お昼、まだなんですけど」

 その態度にむっときた私は、皮肉をこめてつぶやいた。


 見せつけるように、お弁当の入ったコンビニの袋を胸の高さまで持ち上げてみせる。

 矢神は一瞬だけコンビニの袋に視線を走らせ、またすぐに階数表示にもどした。


「話がある」


 急に堰を切ったように心臓が駆けだした。

 話ってどっちの話?

 プロジェクトのこと? それとも。


「そのまえに、一本だけ煙草を吸わせてくれ」

 ささやくようにそういって、また長い溜息をついた。
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