上司のヒミツと私のウソ
 けれども、そのころの彼はまだ十代だった。

 家族や学校という限られた狭い世界でしか生きていない少年が、大人たちの打算や思惑に振り回されてしまったとしても仕方がないようにおもえる。

 本来なら、そんな状況から彼を救うのは両親の役目であるはずなのに、矢神の両親は彼を出来のいい兄の身代わりにすることに、なんの疑問も抱かなかったのだろうか。

 それとも、彼らもそれを望んだということ……?


 矢神が過ごした少年時代がいかに孤独だったかということにおもいいたって、私は突然締めつけられるような痛みに襲われた。

 両親から無視され、求めても求めても二人の愛情を手に入れることができず、その事実を思い知るたびに深く傷ついていた、幼かったころの私。


 二人に愛情がなかったわけじゃない、と今はおもう。

 ただ伝える術を知らず、伝えることの大切さを知らなかっただけ。伝わらない愛情など存在しないのと同じだということに、忙しくて気づけなかっただけだ。


 だけど、私は両親に疎まれているとおもいこんだ。

 自分を生きる価値のない人間だと決めつけて、両親を恨んだ。
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