上司のヒミツと私のウソ
 ミサコちゃんと彼女の家族が、孤独だった私をやさしく包みこんで深い暗闇から救ってくれなければ、私はどうなっていたかわからない。

 矢神は、ひとりで耐えてこられたのだろうか。

 誰にも本心を語らずに。誰にも弱みを見せることなく。


「課長はいまの仕事が好きですか」

「なんなんだ、いきなり」


 矢神がしかめっ面をする。

 私はかまわず、移動して真正面から彼の顔を凝視した。


「いまの暮らしに、不満はないんですか」


 相変わらず整った顔。

 彼にあこがれる女性社員のうち、いったい何人がこの顔の裏側に塗りこめられた暗く陰鬱な一面に気づいているんだろう。

「この仕事は、俺が自分で選んだんだ」

 矢神はまっすぐに私の目を見て答えた。

「不満なんか感じるはずがない。やりたいことがあってもできない人間は世の中にゴマンといる。愚痴なんかこぼしたらバチが当たりそうだ」
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