上司のヒミツと私のウソ
番外編 二十年目の告白 Painful desire



 週末は雨だった。

 土曜の朝、早いうちにマンションを出た。目的地まで、新幹線で移動すれば片道一時間ほどの距離だ。

 座席のシートに身を預け、うとうとしている間に到着した。そこからはタクシーを使う。


 毎年、途中にある花屋で適当に花を買っていく。

 年取ったばあさんが店番をしているこぢんまりした花屋は、見るからに暇そうでいまにも潰れそうな雰囲気なのだが、今年もまだ残っていた。ああいう店が、存外にしぶといのだ。


 墓地に着いてからも、雨は降り止む気配を見せなかった。右手に傘を、左手に花束を持ってその場所へ向かう。


 曽根(そね)家の墓は荒れていた。

 しばらく誰も足を運んでいないらしい。


 雨に濡れて麻紐のようになっている枯れた花の残骸を取り除き、買ってきたばかりの新鮮な花を墓前に供えた。


 墓前で手を合わせていると、砂利を踏む足音がゆっくりと近づいてきた。

 足音は、わずかな距離を保つようにして止まる。
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