上司のヒミツと私のウソ
 しばらくしてから顔を上げた。


 数メートル離れた雨の中に、紺色の傘をさす彩夏が立っていた。


 ためらうようにゆっくりと近づいてきた彩夏の手から、花を預かる。

 二人分の花が供えられると、雨に沈んだモノクロームの世界にそこだけ天然色が浮かび上がったように見えた。墓前は急に麗々として豪華になった。


 彩夏に場所を譲って、なにもいわずにその場から離れた。

 ここはあまり長居したくない場所だった。それに、先日のこともあって彩夏とは顔を合わせづらい。


「時間、あるかな」


 墓地を出たところで、追いついてきた彩夏に声をかけられる。走ってきたらしく、かすかに息を切らせている。足元が泥だらけだった。


 二人で、通りの向こうにあるさびれた喫茶店に入った。客は一人もいない。

 窓際のテーブルを選んで座ると、ポケットから皺くちゃの煙草を取り出して口にくわえ、火をつける。
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