上司のヒミツと私のウソ
 そうなんだ、と彩夏が驚いたように小声でつぶやく。

「よく引き受けたとおもわねえか? 俺だったら絶対にごめんだな。いくら甥っ子とはいえ、三十五で小学生のガキと二人暮らしなんて」

 彩夏がくすくす笑い出した。


「ハルさんって、ちょっと変わってたもんね」

「ちょっとどころか、だいぶ変わってるだろ」

「でも、庸介くんは誰よりもハルさんのこと信頼してたよね」


 彩夏はそっとこちらを見たが、答えを期待しているわけでもなさそうだった。

 むしろ、わかりきったことをあえて言葉にしたとでもいうように、彩夏の顔には笑みが浮かんでいた。

 二人分のホットコーヒーが運ばれてきた。彩夏は砂糖とミルクをたっぷり入れる。


「変わってないな、おまえ」

 ブラックのままカップに口をつけると、彩夏がスプーンを回しながらうれしそうに目を細めてこちらを見た。


 二十四年前の冬。

 ハルと初めて会ったのは、十一歳のときだった。
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