上司のヒミツと私のウソ
「おまえ、息子なんだからあいつの性格、よーく知ってるだろ。ガンコというか融通が利かないというか、一度こうと決めたら絶対に曲げないんだよ。悪いことはいわん。あきらめろ。あきらめてこの状況を受け入れろ」


 母親に厄介払いされたことくらい、いくら子供でもわかっていた。

 母はもどってこない。いわれなくてもわかっている。

 それでも、心のどこかが必死に「わからない」と叫んでいる。その声に俺自身が戸惑っていた。


 籠城は一週間続いた。

 学校にも行かず、四畳半の部屋に閉じこもって一切口をきこうとしない俺を、ハルはほったらかしにした。


 気遣うことも、心配することもせず、ただ毎日当然のように二人分の食事を作り、四六時中べらべら喋った。家が狭いから、どこにいても声が筒抜けなのだ。

 閉めきった襖の向こうから聞こえてくるハルの声は、聞こえたり聞こえなかったりした。

 最初はひとりごとかとおもったが、たまに名前を呼ぶのでやはり話しかけているらしい。


 よくしゃべるオヤジだと、うんざりした。
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