上司のヒミツと私のウソ
 しばらくすると、ハックは俺にもなつくようになった。足もとに体をこすりつけて、甘えた声を出す。

 そのころには、俺の籠城は終了していた。

 ハックと同様、いつのまにか、この狭苦しい家と貧乏くさい中年オヤジと図々しい猫が俺の家と家族になった。




「あたしたち、よく遊んだよね。ハルさん家で、隼人とあたしと庸介くんと三人で」


 彩夏は懐かしそうに話す。

 だが正確には、その記憶は正しくない。


 隼人がハルの家に遊びに来たのはほんの数回で、それもいつも彩夏と一緒だった。おそらく彩夏が誘っていたのだろう。


 中学に入ってからは、彩夏だけが学校帰りに訪ねてくるようになった。

 隼人は名門の私立中学に通い始め、俺たちと会う暇もないほど毎日勉強に明け暮れていたからだ。隼人は日に日に口数が減って、俺たちとも話さなくなった。
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