上司のヒミツと私のウソ
 あのころ、彩夏はそんな隼人のことをいつも心配していた。


──誰かを心配するっていうのはな、愛があるからなんだぞ。


 いつだったか、ハルがいった台詞を思いだす。


「バレンタインの日のこと、おぼえてる?」

 ふいに思い出したように彩夏が聞く。

 屈託のない笑顔を見せて。




 その日、ハルは家にいなかった。

 度重なる俺の無断欠席のことで、学年主任でもある担任から呼び出されたのだ。

 ハルは嫌な顔ひとつせず木枯らしのなか学校へ行き、俺は午後の授業をさぼって家のコタツでテレビを見ていた。


 彩夏が訪ねてきたのは夕方だった。
< 261 / 663 >

この作品をシェア

pagetop