上司のヒミツと私のウソ
 手の中の包みを眺めているうちに、しこりはどんどん大きく重たくなっていった。

 俺はチョコを手にしたまま家を出て、彩夏を追いかけた。

 横断歩道の手前で、ぼんやりと信号待ちをしている彩夏の後ろ姿を見つけると、乱暴に肩をつかんで振り向かせた。


「返す」


 驚いて、一瞬おびえた表情をした彩夏の手に、チョコの入った包み箱を無理やり押しつける。

 箱は彩夏の手に収まらず、かたんと小さな音をたてて足元のアスファルトの上に落ちた。

 彩夏は壊れた人形のように固まって、呆然と俺を見ている。


「もう幼稚園児じゃないんだからさ。こういうのやめろよ」


 彩夏の傷ついた顔を見ると、罪悪感がこみあげてきた。

 彩夏は目をそらし、マフラーに顔をうずめるように「そうだね」と凍えた声を漏らした。


 吐き気がするほどの激しい後悔に襲われた。

 自分は、ほんとうは違う言葉を待っていたのだと気づく。


「なにしてるんだ、こんなところで」

 突然降ってきた声に顔を上げると、ハルがニコニコしながら彩夏のすぐ後ろに立っていた。
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