上司のヒミツと私のウソ
 事前に連絡も入れずに突然乗りこんだから、まさかその部屋に彩夏がいて、隼人と一緒に住んでいるとはおもわなかった。

 だが、たとえ知っていたとしても、やはり同じ行動を取っただろうとおもう。隼人は俺の反応に少なからず驚いていたようだが、終始無言だった。


 離れた場所で青ざめながら呆然と立ちつくしていた彩夏は、俺たち兄弟の仲がもはや修復不可能だということを思い知ったに違いない。


「俺たちはもうもどれない。もしもまだ隼人との仲を取り持つつもりなら、あきらめてくれ」

「ううん、違うの。そうじゃなくて」


 意外にも、彩夏はほほえんでいた。

「びっくりしたけど、実はちょっとうれしかったの、あのとき。だって、他人のことで本気になってる庸介くんを見るの、ひさしぶりだったから。そのひとのこと、とても大事におもってるんだってわかって、うれしかったの」


 俺は煙草を灰皿に押しつけて火を消し、真正面から彩夏の顔を見つめた。


「庸介くんが誰かのために怒るなんて、ハルさんが事故で亡くなったとき以来──」

「俺はなにも変わってない」
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