上司のヒミツと私のウソ
第2部
第1章 幼なじみ Close to you
屋上の空がしばらくぶりに青い。
青一色の中にぽかりと浮かんだひとつかみの雲に向かって、白い煙が左右に揺れながらのぼっていく。
頭上にひろがる空だけを見ていると、ここが都会だということを忘れてしまう。のどかな光景だ。
「なに見てるんですか」
突然、その光景に女の無愛想な顔が飛びこんできた。
「どうしたんですか、その椅子」
俺が座っているパイプ椅子をじろじろ見ながら西森がいう。
パイプは赤さびだらけで、座面のビニールは破けて中の黄色いスポンジがはみ出している。
「さあ。さっき来たらここに置いてあった」
直射日光を受ける夏の屋上は暑い。パイプ椅子は貯水槽の陰に置かれていて、おあつらえ向きの特等席だったのだ。