上司のヒミツと私のウソ
「ひとり暮らしなんて、庸介くんにできるわけない」

 日曜日にわざわざ押しかけてきて、そんなことをいった。


「生活費は送ってくれるってよ」

「そういうことじゃなくて」


 彩夏はいらいらいしたように俺を睨む。

「学校、もう一週間も休んでるでしょ」


 たしかにハルの葬式のあと、学校には行っていない。

 授業なんてうざい。

 教師や同級生と口をきくのもうざかった。


「このまま辞めるつもりじゃないよね?」

「ハルは、学校に行けなんてひとこともいわなかった」

 彩夏は悲しそうな目をむける。

「わかったわかった。そのうち行くから」

「困ったことがあったら電話して。私、すぐ飛んでくるから」

「おまえ……それって普通、男のセリフだろ」


 まだなにかいいたそうにしている彩夏を、適当にあしらって帰した。
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