上司のヒミツと私のウソ
 彩夏がいなくなると、家の中が静かになった。

 窓を閉め切っているせいか、近所のガキどもの声も聞こえない。そういえば今日は日曜だ。こんな快晴の日曜に家にいるほうがおかしい。


 部屋はそこらじゅう散らかっていた。


 テーブルの上には食べ終えたカップラーメンがいくつも置きっぱなしになっていたし、台所の流しには洗っていない食器が山積みされていた。


 洗面所は洗濯物であふれかえっている。

 家事はハルと交代で行っていた。

 つぎはハルの番だった。ハルは当番をすっぽかしたまま、帰ってこない。


 おそるおそる、ハルの部屋をのぞいてみる。


 襖はいつも開けっ放しだった。この家ではどこにいても常に声が筒抜けで、俺たちはそれぞれの部屋にいながら会話した。

 ドラマの最終回を予想し合ったり、流行りのお笑い芸人のネタがいつまで続くか賭けたり、サッカーチームの監督の采配にダメ出ししたり、くだらない話ばかりしていた。


 机の上に乱雑に積み重なった本や広げたままの雑誌、ベッドの上に脱ぎ散らかした服、そこらじゅうに置かれた中身のないCDケース。


 全部、ハルが出ていったときのままだ。
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