上司のヒミツと私のウソ
 部屋の窓から差しこむ光は明るく、窓を開ければきっと五月の晴れた空がひろがっている。

 庭の夏椿が今年もたくさん蕾をつけたと、数日前にハルがうれしそうに話していたばかりだ。


 来年も再来年も、ハルと一緒に暮らすのだとおもっていた。


 いつか俺がこの家を出ていくときは、ハルがさびしそうに見送るんだと。


 今だって、ハルはいつものようにちょっと取材に出かけているだけで、そのうち「よォよォ」といって帰ってくる気がする。

 今回は少し長引いているだけだ。だって、この家はハルの家なんだから。


 あっという間に涙があふれてきた。


 この家で過ごしたのはたったの四年ぽっちなのに、ずっと前からハルと一緒に暮らしていた気がする。

 静けさの中にひとの気配を感じて、振り向くと部屋の入口に彩夏が立っていた。


「ごめん。心配になって……」

 彩夏は、申し訳なさそうに体を縮めて、小さな声でつぶやいた。
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