上司のヒミツと私のウソ
 俺はすぐに彩夏に背を向け、その場に座りこんだ。

 たそがれの色が徐々にハルの部屋の中を染めていく。


 俺が泣いている間、彩夏はずっと部屋の外の廊下に座って待っていた。

 日が陰り、窓の外が薄暗くなっても、彩夏は部屋の中に入ってこようとしなかった。





 金曜の夜遅く、仕事を終えて「あすなろ」に向かった。閉店後に、彩夏と話がしたいと律子さんに頼んでいた。

 店では、彩夏がひとりでテーブル席の一つに座って待っていた。


 俺が近づくと、少し緊張したようなこわばった顔つきになった。だが、顔色は悪くない。服もちゃんと着替えている。


 律子さんが店の奥から現れて「なにか飲む?」と聞いた。酒は断り、水をもらう。

 律子さんはグラスにミネラルウォーターを注いで俺に手渡し、そのまま奥に姿を消す。

 立ったまま一気に水を飲み干して、彩夏の座っているテーブル席に腰掛けた。


「これからどうするつもり?」
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