上司のヒミツと私のウソ
 彩夏はテーブルの上で両手を組み、おもいつめた目で重なり合った白い指を見つめている。


「悪いけど、俺はもう彩夏の力にはなれない。前みたいに泊めてやることもできない」


 はっとしたように彩夏が顔を上げた。


「隼人のところにもどれよ」

「……でも」

「それしかないだろ。おまえがもどる場所はそこだけなんだから」


 わざと顔を見ないようにした。彩夏の不安そうな顔を見ると、決意がぐらつきそうになる。


「隼人に全部話せ」


 無意識に背広の胸ポケットに手をやり、煙草を探っていることに気づく。背広を脱いで、後ろの席に放り投げる。


「不安なことも、自信がないことも、全部話せばいい。今まで隼人にいえなかったことを、全部」

「そんなこと、できない」

「俺には話せただろ」

「隼人は……庸介くんとは違う。いつも忙しそうで、私の話なんか聞いてくれないもの」

「それでも話すんだよ」
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