上司のヒミツと私のウソ
 このファイルは、西森の机の引き出しの中にあったものだ。

 今朝、まだ誰も出社していないうちに机の中を探り、見つけた。中身はフレーバーティーの企画に関する資料でびっしり埋まっていた。


 西森が出した以前の企画書は、本人の手で大幅に内容が書き換えられていた。

 きっと何度も書き直したのに違いなく、具体的な数字が加わって企画書としての密度がさらに濃くなっていた。


 他社の類似製品に関するデータも揃っていた。

 雑誌や新聞の掲載記事、ネットでのクチコミ情報やウェブサイトの動向などが、製品ごとにしっかり分類されている。

 資料にはたくさんの付箋が貼られていて、西森の筆跡によるメモがあちこちにつけ加えられている。


 自分の短慮を罵った。

 西森は、中止の決定を納得してなどいなかったのだ。


「返してください」


 西森がヒールの踵を鳴らして近づいてきたので、俺はさっとパイプ椅子から立ち上がって一歩退いた。
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