上司のヒミツと私のウソ
──それに。

 もし、あれだけの資料を西森がひとりで揃えたのだとしたら。

 西森に、新しい商品に合わせた別の宣伝企画を書かせることは、おもったより難しいことじゃないのかもしれない。


 本間のいうとおり、やはり西森には話しておいたほうがよさそうだと思い直し、六階にもどって西森の姿を探したが見つからない。


「西森さんなら、倉庫ですよ」


 安田に聞いて、倉庫へ行ってみた。

 ドアを開けると、明るい笑い声が聞こえてきた。


 倉庫の奥の、古い資料が並ぶ書棚の前で、西森と販売企画課の福原武史(ふくはらたけし)が楽しそうに話している。


 俺が近づくと、西森ははっとしたように笑うのをやめた。

「今度教えてあげるよ。じゃあ」

 福原は如才なくそういって西森に手を振ると、俺の横を素通りして倉庫を出ていった。


 教えるって、なにをだ?

 気になってしかたがなかったが、西森のほうはまったく俺を見ようともせず、手にしていたファイルを書棚にもどしてさっさと倉庫から出ていこうとする。
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