上司のヒミツと私のウソ
 ふいにうつむいたかとおもうと、西森はそのままくるりと背を向けてドアに向かう。

「ちょっと待て。話はまだ終わってない」

「私は話すことなんかありません」

「あきらめたくないんだろ、だったら」


 ドアのノブを右手で握りしめ、西森は振り向いた。

 最高級ともおもえる優等生の笑顔を浮かべて。


「もういいんです。ありがとうございました」


 西森が倉庫を出て行き、ヒールの音が廊下を遠ざかる。


──なんなんだ、あの態度は。


 渦巻くような烈しいいらだちが、胸にこみ上げてくる。

 本音を明かさない西森の態度に、無性に腹が立った。


 福原武史と楽しそうに話していたときの西森の笑顔が、脳裏に焼きついて離れない。あれはどっちなんだろう?
 裏なのか、表なのか。


 西森がなにを考えているのか、どうおもっているのかを知りたいのに、それを知ることができないもどかしさにいらつく。
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