上司のヒミツと私のウソ
 発売まであと二か月を切っている。もう時間がなかった。

「坂本さんはそんな人ではありません。なにかわけがあるのでしょう。ちゃんと話をすれば、きっとわかっていただけるはずです」


 悲壮な顔付きの佐野をこれ以上不安にさせないよう、できるだけ楽観的な態度を装った。

 坂本本人に連絡を取ってみたが、やはり電話口での答えは同じだった。

 明日にでも直接会って話がしたいと頼みこむと、意外とあっさり受け入れられた。

 すぐに電話を切り、午後三時からの企画会議に入る前に谷部長をつかまえ、京都への出張許可を願い出た。


「一名、同行させたい人間がいるのですが」

 その場で急におもいついた。


「誰だ?」

「西森さんです。関西本部にはまだ顔を出していませんので」


 谷部長は「なるほどな」と適当な相づちをうつ。企画会議の資料に目を通すのに忙しいらしい。

「構いませんか?」

「うん、まあな」

 くどくど突っこまれなかったことに内心ほっとして、その場を離れた。
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