上司のヒミツと私のウソ
 西森が嘘をつき続けるつもりなら、こちらもとことん付き合うまでだ。

 会社を離れた場所で、一日中ふたりきりで行動することになっても、西森はほんとうの顔を見せないのだろうか?

 試してみる価値は大いにある。





 翌日の土曜日は、突然本格的な夏の暑さに襲われた。

 照りつける陽射しが濃い影を落とす宇治の町は、連なる山の緑もたゆたう宇治川の水も、日に褪せたように白っぽくかすんで見えた。


「暑いところ、わざわざ来ていただいてすみませんでした」

 朝早く東京を出て、京都駅から私鉄に乗り換え、午前中に宇治市内にある美舟園の本社を訪ねた。


 応接室に現れた坂本栄治は、開口一番そういって丁寧に頭を下げた。そして顔を上げると、ふっと穏やかな笑みを俺に向けた。

「久しぶりですなあ、矢神さん」

 たった半年だというのに、坂本は懐かしそうに目を細める。
< 331 / 663 >

この作品をシェア

pagetop