上司のヒミツと私のウソ
 坂本の声で我に返った。

「初めてお会いしたのは五年前でしたか。あなたと本間さんは、真剣な態度と言葉で新しい緑茶製品の開発にかける意気込みを繰り返し語ってくださいました。若い人はいい、とあのとき私は心底うらやましくおもったものです」


 大切にしまった箱の中身を探るように、坂本がしみじみといった。

 よく覚えている。


 長年ヒット製品に見放され、第二次緑茶戦争にも乗り遅れ、崖っぷちに立たされた社の命運をかけて行われた一大プロジェクト──それが『一期一会』だった。


 本間とともに何度もここまで足を運んだことを思い出す。


 当初は協力に難色を示していた美舟園の社長も、そして坂本本人も、最終的には「多くの人においしい緑茶を味わってもらう」という理念に賛同してくれた。


 美舟園の茶匠が選び抜いた茶葉だけを使用することにこだわり、本格路線で真っ向勝負を狙った『一期一会』は、今やペットボトル緑茶市場で第三位のシェアを獲得するまでになった。


 このプロジェクトの成功は、自分たち社員に自信という大きな財産を残したと感じている。
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