上司のヒミツと私のウソ
「初めてお会いしたときに、あなたのことを信頼のおける人だとおもいました。CM出演を決めたのも、半年前あなたがここに来て、どうしてもやらせてほしいと頭を下げていったからです」
「だったらなぜ、今になって出演を取りやめるなどと──」
「しばらく仕事を休むことになりました」
穏やかな口調のまま、坂本が静かに告げた。
「先日の定期検診で、病気が見つかりました。癌です」
美舟園の本社を出ると、耳が痛くなるような蝉の大合唱に包まれた。
ぱんと張った熱気の中にさらされたとき、ネジが緩んだように全身が重く感じられたのは、きっと夏の暑さのせいばかりではないのだろう。
坂本はすでにすべての手続きをすませていて、週明けには入院するという。
「あなたたちと一緒に仕事ができて、楽しかったですよ。この年になって、こんな楽しい仕事ができるとはおもってもみませんでした」
今までとなんら変わりのない笑顔で、彼はいった。
「だったらなぜ、今になって出演を取りやめるなどと──」
「しばらく仕事を休むことになりました」
穏やかな口調のまま、坂本が静かに告げた。
「先日の定期検診で、病気が見つかりました。癌です」
美舟園の本社を出ると、耳が痛くなるような蝉の大合唱に包まれた。
ぱんと張った熱気の中にさらされたとき、ネジが緩んだように全身が重く感じられたのは、きっと夏の暑さのせいばかりではないのだろう。
坂本はすでにすべての手続きをすませていて、週明けには入院するという。
「あなたたちと一緒に仕事ができて、楽しかったですよ。この年になって、こんな楽しい仕事ができるとはおもってもみませんでした」
今までとなんら変わりのない笑顔で、彼はいった。