上司のヒミツと私のウソ
「私が一緒じゃない方が、よかったんじゃないですか。坂本さんは、課長とふたりでお話がしたかったんじゃありませんか」

 会社にいるときと同じ、控えめな声とかしこまった口調だった。

 だが、落ち着きはらって見えるその表情の影に、かすかに戸惑うように、罪悪感が浮き沈みしているのがわかった。


 なぜ今日に限ってそれがわかるのか、不思議だった。


 西森を同行させることは、昨日の電話で坂本に伝えてあった。

 もしふたりきりで話したかったのなら、そのときに断っていたはずだ。

 それに、西森に会ったときの坂本の態度を見ればわかる。彼は、西森の存在が告白の邪魔だとは感じていなかった。


 黙りこむ俺を見て、西森はそれ以上問わなかった。

 まだ学生のような若い店員が、アイスコーヒーを運んできた。


 なぜか今は煙草を吸う気にはなれず、胸ポケットには手を伸ばさなかった。西森も吸わない。氷がカラカラと音をたてて濃い茶色の液体の中でふれあう。
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