上司のヒミツと私のウソ
第3章 対決 To resolve oneself
月曜日の朝、新製品検討会議へのエントリーを取りやめることを谷部長に告げた。デスクでノートパソコンの画面を見つめていた谷部長は、「ほう」と意外そうな顔をした。
「開発中止を懇願したのは、君だったはずだが。フレーバーティーシリーズにこだわっていたんじゃないのか」
「申し訳ありません。考えが変わりました」
谷部長は固い表情でこちらを見つめている。
「『一期一会』の新しい広告に手こずっているようだな」
「その件は問題ありません。佐野がすでに新しい企画案を立てて各方面に連絡していますし、『一期一会』の真髄を伝えるという当初のコンセプトは変わりません。スケジュール的にはぎりぎり間に合います」
土曜日の午後、京都からトンボ帰りで東京にもどった。会社に直行すると、佐野が青い顔をして俺の帰りを待っていた。
美舟園の坂本を説得できなかったことを手短に話し、すぐに新しい企画案を書くように伝えた。
佐野はますます顔色を悪くしたが、黙って仕事に取りかかった。投げ出すことはしなかった。
その日のうちに広告代理店の担当者と連絡を取り、大河ドラマの主役に抜擢された若い俳優を起用した新たな広告案を作成したのだった。