上司のヒミツと私のウソ
「美舟園との話し合いは、うまくいかなかったのか」

 鋭い切り返しに、とっさに答えを躊躇した。だが、腹は括っている。

「はい。申し訳ありません」

「そうか。残念だな」


 谷部長は再びノートパソコンの画面に視線をもどそうとして、しばらく考えこみ、もういちど顔を上げた。


「偶然とはいえ、フレーバーティーシリーズと『一期一会』のドタキャンにはどちらも君の部署が絡んでる。これから社内の風当たりは強くなるぞ。覚悟しておけよ」


 その言葉は、言葉以上の重みを持って胸に沈んだ。

 覚悟は決めていたものの、念押しされるとほんとうにこれでいいのかとおもう。だが、撤回する気もなかった。


「エントリーを取りやめる件、彼女にはうまく説明できたのか?」

 なんのことかわからず、少し考えてしまう。


「なんだ、西森さんと一緒に新しい企画を進めてたんじゃなかったのか」

 谷部長が拍子抜けしたようにいった。


「君がひとりで手こずっているようだったから、アシストするよう頼んでおいたんだがな」

「……西森さんに、ですか?」
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