上司のヒミツと私のウソ
 西森がヒントをくれたおかげで、ようやくわかったのだ。

 今のやり方では、ほんとうに新しい製品を生み出すことはできない、と。


 このことを、本間に相談すべきかどうかを悩んでいた。

 開発部の協力が欠かせないことは明白だった。

 そして、協力を求める相手は本間しかいないということも。


 だが、少なくともそれは、今ではないとおもっている。

 今はまだ、動けない。




 明日から夏季休暇に入るという金曜の昼休み、屋上に出ると先客がいた。

 ここで西森に会うのは、久しぶりだった。

 あの資料を束ねたファイルを取り上げた日以来だ。


 京都出張のあと、東京に戻ってきてからも、忙しくて話をする暇もなかった。


 西森は日陰の段差に腰掛け、靴を脱いだ両足を伸ばして、青い空に高く盛り上がったまっ白な入道雲をぼうっと見ている。

 あいかわらず、隙だらけだ。
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