上司のヒミツと私のウソ
 近づくと、目が合った。

「めずらしいな」

 声をかけると、西森はつんとして「忙しかったんです」という。


「もう息抜きは必要ないのかとおもった」


 西森はくやしそうに顔をゆがめて、黙りこむ。

 俺も同じ日陰に入り、西森の横で胸ポケットから煙草を出して火をつける。


「例の資料を返そうとおもってた」


 西森は驚いたように俺の顔を見上げた。


「まあ待て。今すぐ返したいところなんだが、手もとにない」

「は? どういうことです?」

「だから、ここにはない」

「じゃあ、いったいどこに……」

「自宅」


 呆れたように口を開け、西森が無言でこちらを見つめている。が、すぐに溜息を吐くと、「別にいいです」といった。
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