上司のヒミツと私のウソ
「私が持っていても仕方ないですもん。新しいプロジェクトの参考に使ってもらえるなら、そのほうが……。どうせそのために作ったものなんだし」

 最後のひとことを口にしたあとで、西森は明らかにしまったというような表情をした。うろたえたように目を逸らす。


「中身は全部おぼえた。それに、悪いが俺はしばらくプロジェクトには参加できそうにない」


 西森はなにもいわない。全社に流れているいたけれどを思い出しているからだろう。

 それはいたけれどではなく、事実でもあるのだが。


 京都出張が失敗に終わったことは、予想以上に社内での俺の評価を下げることになった。


 九月に起ち上がる新規プロジェクトをはじめ、その後の予定に入っていたものは、ことごとくメンバーから外されることになった。

 宣伝企画課そのものが俺の失態のとばっちりを受ける羽目になり、仕事が激減した。


 谷部長から忠告を受けていたし、ある程度予測はしていたが、部署にまで影響が及ぶとは考えていなかった。

 今度の一件で自分以外の人間を巻きこむのは、やはり心苦しかった。
< 346 / 663 >

この作品をシェア

pagetop