上司のヒミツと私のウソ
長い髪が頬にかかり、顔が見えない。
「待ってますから」
聞きとれないほど、小さな声だった。
西森の両手の指が、膝の上でやわらかく組み合わさる。子供が願い事をするときのように。
聞き間違えたのかとおもった。
返事を忘れていると、西森があわてたように顔を上げた。
「みんなが、ですよ。佐野さんとか、安田さんとか。ええと、宣伝企画課のみんなです」
いいながら靴をはいて立ち上がり、先にもどりますと告げて足早に去っていく。
ヒールの音が急ぐように昇降口に向かい、吸いこまれた。
入道雲を見上げてビル街に響く蝉の声を聞いていると、口に含む煙草まで夏休みの味がする。
あれでも励ましたつもりかと腹の底の方で笑いがこみあげる。
ぎこちない言葉の向う側にはてしなく深い沈黙が広がっていることに、たぶんほとんどの人間は気づかない。
そのことに気づけば、西森が発する言葉はどれも嘘ではないのかもしれない。
「待ってますから」
聞きとれないほど、小さな声だった。
西森の両手の指が、膝の上でやわらかく組み合わさる。子供が願い事をするときのように。
聞き間違えたのかとおもった。
返事を忘れていると、西森があわてたように顔を上げた。
「みんなが、ですよ。佐野さんとか、安田さんとか。ええと、宣伝企画課のみんなです」
いいながら靴をはいて立ち上がり、先にもどりますと告げて足早に去っていく。
ヒールの音が急ぐように昇降口に向かい、吸いこまれた。
入道雲を見上げてビル街に響く蝉の声を聞いていると、口に含む煙草まで夏休みの味がする。
あれでも励ましたつもりかと腹の底の方で笑いがこみあげる。
ぎこちない言葉の向う側にはてしなく深い沈黙が広がっていることに、たぶんほとんどの人間は気づかない。
そのことに気づけば、西森が発する言葉はどれも嘘ではないのかもしれない。