上司のヒミツと私のウソ
 今、近づくことをためらうほど、彩夏を遠く感じる。

「ごめんなさい。もう迷惑かけないって約束したのに」

 彩夏は目を合わそうとしない。そしてひたすら謝っている。ささやくような小声でごめんなさい、を繰り返す。


 とっさに、違和感を感じた。直感というべきかもしれない。


「なにをいわれた?」


 隣の席に腰掛け、せかすように尋ねた。ごめんなさい、と彩夏はまたいった。


「謝らなくていい。あの人たちに、なにかいわれたのか」

「……もう少し待ってほしいって」

「隼人との結婚をか?」


 彩夏はうつむいて、かすかにうなずいた。


「どうして今さら」

 彩夏は十分に待ったはずだ。

 ゆっくりと顔を上げ、彩夏が俺を見た。涙の滲む目で。


「ご両親は、あなたに会いたいといってるのよ、庸介くん」


 おもいがけない言葉に、思考が止まる。
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