上司のヒミツと私のウソ
 次の瞬間、心臓の鼓動が慌ただしく胸を打ち始めた。

「あなたが今どこに住んでいるかも、あなたの勤め先も、仕事の内容も、どういう交友関係を持っているかも、あなたが私や隼人と会っていることも、全部ご存じだわ」


 律子さんから受け取ったコップの水が波打っている。

 手が震えているのだと気づいて、すぐにテーブルの上にコップを置いた。


「ごめんね、庸介くん」


 彩夏がさっきからなにをそんなに謝っているのか、ようやくわかった。

 俺が昔から両親を毛嫌いしていることは、誰よりも彩夏がいちばんよく知っている。


「謝らなくていい。悪いのはあいつらだ」


 不快な怒りがこみあげてくる。

 俺に会いたいのなら直接いえばいい。こそこそ嗅ぎ回った挙げ句、隼人の婚約者である彩夏を脅して利用するなんて、やり方が姑息ではないか。


「どうしよう。どうしたらいい?」

 彩夏が不安そうに俺を見た。

「いつでも会うと伝えてくれ」

「でも……」
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